KHAN
The Rise of the Mongols
#229 June 2005


モンゴル帝国の興隆

1206年、モンゴルの国王テムジンが中国に侵攻した時、彼は無名だった。中国は過去に幾度となく周辺諸国から戦争を仕掛けられ、その都度防衛に成功していたが、今回はそうはいかなかった。万物の統治者を意味する称号「ジンギス・カン - Genghis Khan」を持つテムジンは、中国のみならず周辺諸国すべてに侵攻を繰り返し、東は黄海、南はバクダッド、西はウイーンの手前まで版図を広げたのである。
その後、何世紀もの間にわたって、モンゴル人の戦争の上手さと残虐性は世界に知られることになるが、モンゴル人とは誰なのか、またどのようにして中世に最大の帝国を築くことができたのだろうか?

戦略
軍事的観点から見れば、モンゴル人は様々な戦略的優位を持っていた。まず言えることは、領土が中央に位置していたことである。内陸アジアの広大な草原を中心地域とするモンゴルは、東の中国、南のイスラム圏、西のヨーロッパのいずれも攻撃できる場所にあった。しかもこれら周辺諸国は兵力の動員に欠陥があり、モンゴル内陸に侵攻するだけの軍備を持っていなかった。モンゴルへのルートは、山脈、砂漠などの無人地帯に阻まれ、正規軍にとって障害となるものだった。もっとも根本的な原因は、モンゴルには都市や灌漑地帯などの軍事目標となりかつ防衛しにくい人口密集地域が存在しなかったことである。放牧民であるモンゴル人は、家畜を飼育できる牧草があればどの場所にでも移動することができたのである。
一方、モンゴル人は任意の攻撃相手を選択することができた。もちろん、周辺諸国が連合したならば、モンゴルは二方面ないし三方面作戦を強要され勝ち目はなかったかもしれないが、近世以前の世界において通信手段は限られており、しかも周辺諸国は内紛に忙殺されていたのだ。
ジンギス・カンの中国侵攻は、中国が金、西夏、南宋に分裂している時に行われた。これらの三国は、時には争い、時には連合を組んで他と戦争を行い、他国への優位を得るためにモンゴル帝国と同盟さえ組んで戦ったが、モンゴル人が本当の脅威であるのを知った時は遅かったのである。
今日中東と呼ばれる地域は、イスラム・カリフ朝がエジプトのAyyubid、イラクのAbbasids、ペルシャのKhwarezmiansとに分断し、セルジューク・トルコはビザンチン帝国に圧力をかけていた。
事態を悪化させていたのは十字軍の存在である。1098年からはじまった十字軍遠征は、第四次遠征の1204年でコンスタンチノープルを陥落させ、その後も13三世紀の終わりまでに計8回の遠征が行われている。イスラム世界が十字軍との戦争に没頭しなければならなかった時代、中東がモンゴル人の脅威に対抗できなかったのは驚くべきことではない。イスラム社会がモンゴル帝国に有効な反撃を行うのは、1250年のエジプトのマルムーク王朝が最初だった。
ヨーロッパは、数世紀前にカロリング朝(フランク王国)が分裂して以来、統一する政体がなくなり、各地の領主、貴族、都市がそれぞれの軍隊を持つようになっていた。しかも、当時のヨーロッパ人は時間のほとんどを争いに費やしていたのだ。さらに状況を悪くしていたのは、キリスト教もカトリック、正教会、その他「異端派」に分裂し、政治的統合を不可能にしていたことである。言うまでもなく、政治的統合なしに軍事的統合はありえなかった。
たとえば、ハンガリーがモンゴル帝国に攻撃された時、国王ベーラ4世は国内の貴族と紛争していた。事態を複雑にしていたのは、領内にモンゴル帝国の侵攻から逃れてきたトルコ人とイスラム人がいたことである。もし彼らがハンガリー重騎兵と東方軽騎兵として連合したなら、モンゴル軍と対等の戦力になったかもしれない。ハンガリーとモンゴルの戦争は、1241年4月、モヒの戦いにおいてモンゴル軍の勝利に終わった。
(My comments: これは冒頭約1ページ分です。本誌には、13世紀の主要なモンゴル帝国の戦争の解説が記事と豊富な図解入りで12ページであります。)

北方の獅子: レヒ河畔の戦い

三十年戦争の中期、バイエルン王国を占領したスウェーデン王グスタフ・アドルフは、そこを拠点に神聖ローマ帝国の政治中枢であるオーストリア攻略を狙った。
1632年4月5日、バイエルン王国の国境ドナウヴェルトにおいて、レヒ川をはさんで、ティリー率いるバイエルン軍と戦闘を開始する。

付録ゲーム: KHAN

My comments:
S&T#229付録「KHAN」は、1206〜1295年までのモンゴル帝国の歴史を描いたゲームです。マップは東ヨーロッパから中東、インド、中国、東南アジア、日本までをカバー、日本のユニットは6つ付属し、エリート部隊の戦闘力は最高の9が与えられています。

ゲームレビューはこちら

第一次大戦のロシア艦隊

バルチック海は、一般に考えられているより複雑な戦場だった。奇妙なことに、ロシア、ドイツ双方とも敵軍が優勢であると思っていたのである。 1914年において、総合的にはドイツ海軍が優勢だったが、ドイツの関心は北海のイギリス海軍にあったため、バルチック海に配置されていたドイツ海軍の戦力は少なかった。しかし、ドイツは必要であれば直ちに北海からバルチック海に艦艇を派遣することができた。したがって、ロシア海軍は自軍の優位はいつでも覆るものであることを知っていた。
ロシア海軍にはいくつかの制約が課せられていた。ひとつは、首都セントペテルスブルグを守らなければならないこと、ふたつ目は、中立だったスェーデンがいつドイツと連盟するかわからないので、それに備えなければならないこと、三つ目は、1905年の日露戦争における損失が大きかったため、二度と同じ損害をこうむることはできない、ということだった。

「The Triple Alliance War, 1865 - 1870」が進行中

現在開発中のこのゲームのテーマは、「兵力の量と質」というクラシックなものである。
パラグアイの軍隊は良質で、戦意も高く、統合されているが、人的資源は敵対する連合国側(ブラジル、アルゼンチン、ウルグアイ)よりもずっと少ない。一方、ブラジル軍やアルゼンチン軍は人的資源は豊富だが、国家建設の途上にあるため、兵士の戦意はしばしば低い。

ゲームには複数のシナリオが付属し、1865〜69年を描いたキャンペーンゲームも用意している。パラグアイ・プレイヤーは、よく訓練され、敵より良質の装備を持つ大きな編成の軍で先制攻撃を連合国側に行う。ブラジル、アルゼンチンはいずれも完全な軍を動員できない。パラグアイは初盤の攻撃でできるだけ多くのダメージを相手側に与えなければならないが、損失は容易に回復できない。

1ターンは3ヶ月で、プレイヤーは1ターンに3回までできる「活性化」を交互に行ってゲームを進める。「活性化」を行うには、国家戦意ポイント(NMP)を消費して行う。戦争を行わないターンでは、その国のNMPは少し回復し、NMPが低下するとその国は戦争の継続ができなくなる。
たとえば、1866年にCurpaytiで起きたたった一度の血なまぐさい敗退では兵力回復のために何ヶ月もの間、戦争が中断した。

しかし、パラグアイ・プレイヤーにはNMPトラックがない。歴史的にパラグアイは、この戦争を生存のためであると信じ、国民という概念も他のどの国よりも発達していた。戦争の過程でパラグアイの男子人口の90%が失われたが、それでもパラグアイは戦争を継続したのである。それゆえ、このゲームではパラグアイ・プレイヤー用に「人的資源」トラックが提供される。最後の兵員が徴用され、トラックマーカーが「子供と老人」に達するまで、パラグアイ軍の戦闘力が劣化することはない。

それぞれのターンのはじめにはランダムイベントがある。政治、外交、マップ外でのイベントはここで行う。ユニットタイプは、歩兵、騎兵、機動砲兵、攻城砲兵、工兵、守備兵、河川小艦隊、補給部隊、リーダーが含まれる。

過去のS&T

50号前#179
「第一次アフガン戦争」

Joseph Mirandaが第一次アフガン戦争のKhyber渓谷における1839〜42年の戦いをシミュレート。Bryan BookerがペルシャのNadir王、Brian Trainによるペルーのゲリラの記事など。

100号前#129
「死の収穫」

ゲティスバーグの死闘をMartinとMilmanがゲーム化。アンゴラ、補給、セバストポール、ドイツの戦争計画、ソビエト陸軍の配置など。

100号前#79
「Berlin '85」

伝説のゲームを、Jim Dunnigan、Dave Richie、Kerry Pendergast、Redmond Simonsen。「Battle for Stalingrad」の発売に連動してDave Parhamがドアツードアのスターリングラードの市街戦の記事。

200号前#29
「USN」

Jim Dunnigan、John Young、R. Champer、Al Nofiによる太平洋戦争の大シミュレーション。Victor Madejが電撃戦の分析。その他、本とゲームのレビュー。

 

S&T 予告

S&T#230の付録ゲームはアメリカ軍の日本侵攻を描いた「Downfall: If the US had invaded Japan, 1945.」
その他、バルジ作戦の空軍作戦、Allenbyの砂漠の戦争、宮本武蔵と侍の戦術、ワルシャワ・ゲットーの蜂起、の記事を予定。


War in the Pacific

SPIのモンスターゲームの再販「War in the Pacific」は、2005年に秋Decision Gamesから発売予定。
ゲームマップ、ユニットのデザインが一新し、旧ルールの問題点が整理されている。発売に際しては「旧作と異なりテストプレイを繰り返し行い、ちゃんとゲームができるようになっている」、という。
空中・海上戦は旧ゲームのシステムを残したが、陸上戦はVGの「Pacific War」のシステムを導入し、ステップロスで戦闘結果を解決する。補給と指令ルールはよりバランスの取れたものに改良されたが、ゲームの結果を左右する重要な部分であることは旧作と変わらない、とDecision Gamesのサイトに書かれている。
コンポーネントはフルマップ7枚、カウンター9000枚。

予価440ドル 予約価格330ドル