City Fight (SPI)

兵士たちは壁に穴をあけて通り抜ける

「スコードリーダー」のSPI版である「Cityfight」は、ウォーゲーム全盛期に発売されたにもかかわらず、それほどヒットしたとは思えません。
考えられる理由は、SPIが難易度の高いゲームを続々と開発していた時期に発売されたため、「Air War」のような精密シュミレーションであると思われてしまったこと、第二に、ダブルブランド・ルールという、いかにもプレイのしづらそうなシステムであったことがあげられます。また、ダブルブラインド・ゲームは、ソロプレイに適さないものでした。
しかし、実際には、「Cityfight」は、スコードリーダーよりも包括的に歩兵戦をまとめたゲームだと思います。

ゲームデザイナーは、Stephen Donaldsonと、後にVGで「Korean War」をデザインするJoe Balkoski氏。

Air War
プレイ前に練習飛行が必要な程、航空力学を精密に表現した「Air War(1979)」は、1ターンを2.5秒とすることで、スロットル操作と実際の加減速とのタイムラグを表現しているらしいのですが、この細かすぎる時間設定のおかげで飛行機は容易に前に進まず、まるでソロプレイをしているかのように黙々と航空機を動かした後、一発の空対空ミサイルで勝負が決する、と聞いたことがあります。
また、スペックを精密にしすぎたために、航空機の性能のかなりの部分がゲームデザイナーの推測にすぎないという批判もありました。発売から一年ぐらいで出たエラッタは、ルールブックと格闘していた人には事件であったことでしょう。発売後の経緯も含めて、SPIの伝説を作ったゲームと言えます。

特徴:
「広々とした場所に兵士が身をさらすのは賢明なことではない。市街戦では、通りに出ている人間が死ぬ。」と言うのは、米国のシンクタンク、ランド研究所の上級アナリストであるラス・グレン博士。だからこそ第二次大戦のスターリングラードの攻防以来、市街で戦う兵士たちはどちらの側であろうと、建物から建物へと移動するのに扉は使わないのだと、ルイス氏は指摘しています。兵士たちは壁に穴をあけて通り抜ける、のだそうです。

すなわち、市街戦で最初に兵士が行うことは身を隠すことであり、次に、同じように隠れている敵を見つけることです。そして、敵を見つけるには遮蔽物の外に出なければならないのです。この市街戦特有の性質を表現するために、「City Fight」はメガヘックス(相互に隣接する7つのヘックス)を使用したダブルブラインド・ゲームとなり、革新的なシステムとしてSpotting(敵を見つける)を導入しています。
1ゲームターンは20秒、1ヘックスは16.67メートルと、射線が通ればマップの端から端まで撃てそうなスケールです。基本ルールは16ページで、使用するCRTは一種類、移動は兵科、地形に関わりなく1ターン1ヘックス、「スコードリーダー」にあるような複雑な火力修正はありません。基本ルールだけなら簡単にプレイできそうです。
(上級ルールになると、「歩兵レベルの戦闘の最大の特色は、三次元で行われることである。」などと言って、建物の高さがSpottingに導入さたり、AFVが射線をふさいだりしますが、これはスコードリーダーも同じ。)

戦闘:
ほんどのウォーゲームでは、戦闘は、ユニットとユニットの問題として解決されますが、「City Fight」では、ヘックスに対して戦闘結果が求められます。このルールによって、敵がいる「と思われる」ヘックスに威嚇射撃を行い、その間に走って別な遮蔽物に隠れる、という動作が可能になっています。

建物を壊すルール:
上級ルールでは、装甲車、対戦車火器、放火、煙幕、壁に穴を開ける(狙撃用の穴や、兵士を突入させるため)、AFVを建物にぶつけて壊す、などが可能になり、強力な狙撃兵ルールも登場します。
砲兵は、市街戦において重要な役割を果たし、射線をさえぎる建物を吹き飛ばしたり、煙幕弾の投下を行います。工兵ユニットは、ブルトーザーで建物を壊し、あるいは防衛拠点を作り、通りをバリケードで通行不能にし、地雷やブービートラップをしかけることができます。包括的なルールなので、双方の兵力と地形がわかればオリジナルのシナリオを作ることは容易と思われます。

指揮ルール:
スコードリーダーと同じく指揮官のユニットがあり、アクション・ポイントなるものを使用した指揮ルールがあります。やや煩雑に感じられますが、「市街戦において指揮の伝達は、野戦よりも困難であり、兵卒の統御はクリティカルな要素である。」とデザイナーズノートにある通り、かならずしもスムーズに行かない士官と兵士との指揮伝達状態をシュミレートしているようです。

シナリオ:
お約束であるNATO対ワルシャワ条約機構軍の架空の市街戦のほか、1956年のハンガリー動乱、キプロス戦争、レバノン内戦、70年代の中越戦争、パンク・ロッカーの暴動、逃亡した銀行強盗の捕獲・殺害などが収録されており、「Patrol!」のように、市街戦一般に適用できる汎用ルールを目指していたことがわかります。一番小さなシナリオは、なんと1メガヘックス(7ヘックス!)での戦闘ですが、相互に相手が見えないから可能なのでしょう。

「MechWar 2」「Firefight」との関連
このゲームの指揮ルールは、 「MechWar 2」で使われているものを修正して用いているようです。また、「City Fight」のマップはドイツのGerlafingen市を表していますが、このマップにおける1メガヘックスは正確に「Firefight」における同市の1ヘックスに相当するみたいです。
なぜこのようになっているかというと、「Firefight」と「City Fight」を連結してプレイするためなのです。「ルールはできている。いずれMOVES誌で発表する。」とデザイナーズノートには書かれていますが、どうなったのでしょうか? 「Firefight」は再販されていますから、興味深いルールといえます。

○ゲームレビューはこちら

 

SPIが歩兵戦闘を扱ったその他のシミュレーション

Sniper! (1973)
第2次世界大戦における主に市街地での戦闘を扱ったゲーム。このシステムは後に大幅に拡張されて、戦車に関するルールを増補するモジュール「ヘッツアースナイパー」、現代までのコマンド作戦をプレイする「スペシャルフォース」、果てはエイリアンとの戦いを扱った「バグハンター」が出版されました。
ルール は、個々の兵器・小銃の性能比較よりは兵士の士気・錬度を重視したものになっており、そこがこのシステムを汎用性の高いものにしているようです。James F. Dunnigan氏がデザイン。

Patrol! (1974)
「City Fight」や「Sniper!」が市街戦を扱っているのに対し、「Patrol!」は野戦を重視しています。第一次大戦から、第2次大戦(太平洋戦線を含む)、朝鮮戦争、ベトナム戦争、さらには冷戦当時に予想された中ソや米ソの対決までを、例のごとく共通のルールで扱っています。これもDunnigan氏がゲームデザイナーでした。