NATO Division Commander (SPI)

紙とサイコロでここまで表現したのは凄い、と思った

1979年に発売されたNDCは、ヘッセン州フランクフルト近郊における、NATO軍とワルシャワ条約機構軍の戦いを大隊レベルでシュミレートしたものです。1へクス1マイル(1.6km)、1ターンは時間、マップエリアは112キロ四方。「Next War」のマップで8ヘックス四方に相当する狭い地域です。

ユニットには戦闘力と移動力しか印刷されていない。これだけなら簡単なのだが...

箱絵にヒューイや自走砲のシルエットが描かれていますが、NDCは歩兵と機甲の運用に限定したゲームです、しかも、極めつけの。
箱をあけてみてわかった事実は、NDCが、ジム・ダニカンがデザインした、カウンター数1200のモンスターゲームであったということでした。

その後、長い間ルールブックを精読する日が続きました。もちろん、他のゲームなど買わずに。ソロプレイをしてみたら、何をやっても戦闘結果は1か2にしかならず、対戦を楽しむゲームではなさそうでした。それでもひきつける魅力があったのは、アカデミックな匂いが一杯の、ダニカン氏の研究発表のような内容だったからです。

モンスターゲーム

1970年代後半には、ウオーゲームのルールは複雑化の一途を辿り、ルールブックだけでも数十ページが当たり前になっていました。ゲームも異常に時間がかかるので、1日で終えることができないのです。

CAMPAIGN FOR NORTH AFRICA
プレイ不可能なゲームとして、「CAMPAIGN FOR NORTH AFRICA 」は、あまりにも有名です。ナポレオンはかつて"l'intendance doit suivre"(補給は後からついてくる)と言ったそうですが、CNAは、それがいかに大変であるかがわかるゲームと言われています。

このゲームは1940年9月から1943年1月までの北アフリカ全域を1ヘックス8km、5枚のマップでシュミレートしており、戦闘部隊は大隊レベル、航空機は一機、そして輸送トラックのコマがあります。
CNAは、抽象化をすべて排除した究極のゲームと言われています。片側に最低5人のプレーヤーが必要で(Commander-in-Chief、Logistics Commander、Rear Area Commander、Air Commander、Front-line Commander)、1ターンを終了するのに平均10時間、キャンペーンゲームは1200時間(一日18時間やっても66日)、もっとも短いシナリオでも30〜50時間ぐらい。

移動と戦闘システムはシンプルで、戦闘ユニットは好きなだけ移動と戦闘を行えますが、その分疲労し、物資を消耗します。
航空機は、一機一ユニットで、ルールそのものは難しくないようですが、Air Commander(航空指揮官)になった人は一人で500機から1000機をコントロールしなければなりません。(そして各機ごとの搭乗員も...)

補給は、CNAのルールの中枢です。カウンターで表現された補給物資は、水、糧食その他、燃料、弾薬の4種類があり、水は人間と車の両方に必要です。物資はカイロに無尽蔵にありますが、船で運ばねばならず、港からはトラックのコマで地上部隊まで届けなければなりません。
この部分がCNAでは一番複雑であると言われています。というのは、トラックは故障し、故障したトラックは修理しなければならず、輸送ユニットは敵の攻撃を受け、水と燃料は放っておくと蒸発するからです。補給ルートを整え、地上作戦の予定にあわせて物資を補給する、これがCNAのすべてと評される所以です。そして、Logistics Commander(補給担当武官)は、戦争などそっちのけでプレイの間中、ペーパーワークに追われることになります。

私はプレイしたことがありませんが、アメリカのWar Gamerサイトの情報によれば、セットアップに一日かかり、ゲームをはじめることができたのは夜になってからだそうです。しかしながら、「6人の大人が翌日もプレイを続けたのは、『それなりに』魅力があったからだと思う。」と書かれています。「私はドイツ軍の地上指揮官だったが、ペーパーワークばっかりやっていた。水を絶やさないようにする事で精一杯だったから、戦争をやっている暇がなかった。たぶんロンメルの下には私のような仕事をする将校が大勢いたのだろう。」
CNAで最も難しいのは、5〜60時間もプレイする人を自分以外に9人見つけること、だと思います。

SPIが発売したその他のモンスターゲーム


NDCのルール
NDCの戦闘ルールは「Central Front」シリーズと基本的に同じ、すなわち戦闘を移動の中で消化し、理論上は移動力が残っている限り、何回でも同一ターン内で戦闘を繰り返すものです。
しかし、「Central Front」と決定的に違うのは、戦闘よりも、戦闘に至るまでのプロセスに重点を置いていることです。言い換えるなら、NDCは司令部から大隊ユニットまでの司令システムをゲーム化しているのです。
NDCでは攻撃用のフォーメーションをとったユニットを防御用に変換するには時間とコストを要します。ユニットを動かした後で、攻撃するのか防御するのかを決めたのでは意味のない動きをしたことになり、疲労ルールによって部隊を疲労させるだけです。プレイヤーは敵味方の戦闘力よりも、味方部隊の運用に頭を使うことになり、軍事演習用のウォーゲームに近い内容になっていると思います。

「Central Front」シリーズ

「Fifth Corps」「Hof Gap」として発売されたSPI1970年代後半の製品。ホビージャパンによれば、10シリーズ発売される予定で、マップを連結することで「War in Europe」のようなモンターゲームになるはずでした。
このゲームで特徴的なのは、近代戦は遭遇戦が中心であるとして、戦闘を移動の一部とみなし、ひとつのユニットごとに移動と戦闘を解決してゆくシステムを採用していることです。このルールは近代戦の流体性を再現するためと言われています。

「ゲームに柔軟性をもたらすシステム」「流動的な移動/戦闘ルールにより、敵の前線に穴をあけ、そこから背後に侵入できる」、とタクティクスには書かれていましたが、実際には十分な計画がない限り、戦線はすぐに膠着状態となると思います。なぜならZone of Controlが強力で、砲兵が堅固な防衛線を作ることができ、肝心の移動力もそれほど多くないからです。少なくとも高校の時、一回だけHof Gapをプレイした時はそうでした。(その後、ルールブックの誤訳によって日本語版はまるで別物のゲームになっていたとどこかで読みましたが本当でしょうか?)

「Central Front」シリーズにないNDC独自のルールは以下の通りです。

体勢
ユニットは 、常に、定点防御、緊急攻撃、高速移動、広域守備などの11種類のいずれかの体勢をとります。体勢を変更する度にユニットの疲労が上昇し、戦闘結果に悪影響を及ぼします。体勢の変更には司令部の「スタッフ値」を用い、「スタッフ値」を用いるには司令部と戦闘ユニットの距離が指揮範囲(10ヘックス以内)でなければなりません。従って、戦場における師団司令部の位置も重要です。

Modeマーカー。一番左のAM(機動体勢)は、移動力が40だが、攻撃力は-2、防御力は敵の攻撃力に+6と、攻撃・防御ともに不利である。PD(定点防御)は、移動力が0であるのに対し、 防御力は-6であり、攻撃を受けた場合、敵の攻撃力から6を減ずることができる。

 

疲労
「NDC」の戦闘ユニットは、休息を与えないと疲労し、疲労がある点を越えると壊滅します。疲労したユニットは、戦闘においても不利になります。ユニットを全く動かさず体勢変更も行わないなら、そのユニットの疲労値は減少します(休息)。しかし、当時のワルシャワ機構軍のドクトリンは、休息を与えずにひたすら西に進撃することなのです。

TOE (装備と編成値)
戦闘結果は、戦力のロスでなく、TOEの減少によって表現されています。TOEがゼロになると、その部隊は壊滅したとみなされ、ゲーム盤から除去されます。疲労によってもTOEは減少します。

CSP (司令部支援値)
CSPは、砲兵、通信、航空部隊の能力を抽象化した値で、司令部が各部隊に配当します。CSPは次に述べる情報値を高めるためにも使われます。すなわち、プレーヤーは限られたCSPを、砲爆撃に使うのか情報値に使うのか判断しなければなりません。

CSPは、工兵、通信、航空、砲兵の4種類があり、盤外の記録マーカーとして扱われる。

情報値
情報値は、当該ユニットが敵をどれぐらい知り、敵にどれぐらい知られやすいかを抽象化した数字です。司令部は、CSPを特定の部隊により多く充当し情報値を高めることで、戦場における情報の優位を与えることができます。敵ユニットとの情報値の差は奇襲効果として戦闘結果に反映されます。情報精度は、セミブラインドゲームでは、敵部隊の位置を調べるために使われます。

情報精度マーカーは、そのユニットが敵にどれだけ知られやすいかを示す。

 

砲爆撃
NDCに砲兵ユニットはありません。極度に抽象化された砲爆撃は、戦闘前の「対砲兵砲爆撃(Counter-Battery Fire)」「阻止砲爆撃(Interdiction)」と、戦闘中の「連携砲爆撃(Barrage)」「防御砲爆撃(Final Protective Fire)」の種類があります。 いずれもCSPを消費して行います。

師団指令
このようなルールの結果、「NDC」において、プレーヤーが考えなければならないことは、部隊の移動や戦闘だけではなくなります。その代表的なものは次の通りであり、これは「師団長が戦場で求められる判断と同じである」、とデザイナーズノートに書かれています。

  • 敵の行動によって、当初立案した作戦を変更しなければならないだろうか。作戦を変える場合、部隊の体勢も変更しなければならない。 変更するなら、いつ行うのか、それはどのような体勢であるべきか。敵の活動が活発な地域の味方部隊に、CSPを増援する必要はあるか。あるならどれぐらいか。

  • 攻撃は、どの程度の奇襲効果(彼我の情報値の差)を伴うものなのか。すなわち、司令部は当該部隊に十分な情報(CSP)を提供しているか。敵はその地区に対する防御を向上させるため、我軍を上回るCSPを供給していないか。

  • 攻撃に先立ち、十分な隣接支援(隣接する味方ユニット)が存在するか。そもそも、その攻撃に際し、どれぐらいの隣接支援が必要と見積もっていたか? 隣接支援すべき部隊は、それを行うのに適切なModeになっているか。適切でない場合、支援する部隊は疲労のリスクを犯して強行軍で参戦すれば間に合うのか?

  • 攻撃を行う部隊に、もっとCSPが必要ではなかったか。必要であるなら、どれぐらい用意しておくべきだったか。CSPを支給する司令部は、適切な体勢になっていたか。前回のターンで、より適切な体勢を司令部はとるべきでなかったか。

  • CSPの用法は正しかったか。阻止砲爆撃で敵の背後を叩き、増援軍との連携を断つべきではなかったか。あるいは、航空偵察を強化して作戦級情報をもっと集めるべきでなかったか。

  • 部隊の疲労度は? 前回の移動は本当に必要なものだったか。戦闘後、部隊がどの程度疲労するかも、師団長は戦闘前に考慮しなければならない。
  • 司令部のユニットは、隷下部隊と適切な距離に置かれているか。次のターンで部隊が反撃しなければならないなら、その部隊は反撃にふさわしい体勢に変更する必要がある。次ターンにおいてMode変更を予定するなら、司令部ユニットは、現行ターンで指揮範囲に移動しなければならない。

ルールブックには、NATO、ワルシャワ軍双方のドクトリンが示され、それに従って大隊を運用することを勧めています。

コントローラーゲーム
コントローラーゲームとは、セミブラインドゲームで、二枚のマップを使用し、ワルシャワ条約軍側が、審判を兼ねてプレイを行います。NATO軍側は自分のマップと自軍のユニットしか見ることができず、敵の位置は情報値を使って調べます。ワルシャワ条約軍は、双方のマップを見て適宜情報を操作する「コントローラー」なのです。

コントローラールールを応用して、メールを使ってダブルブラインドゲームとしてプレイする方法は以下のリンクの通りです。
NATO Division Commander PBEM

「NDC」のマップは、セクターと呼ばれるグリッド(青い点線)が存在する。コントローラーゲームにおいて、たとえば、情報精度が1である部隊は、敵にそのセクターを通告しなければならない。情報精度が3である部隊はユニットの所在ヘックスと兵科、部隊番号を通告しなければならない。

 

The monster game of modern warfare, "NATO Division Commander" is an SPI classic that is probably more studied than played. Described in the rules as a "battalion level simulation of conflict in contemporary Europe", NATO Division Commander gradually introduces players to its complex mechanics through a series of scenarios of increasing difficulty. When mastered, the game is a War College-level education on the conduct of World War III small unit tactics between NATO and Soviet forces.

Adding to its uniqueness, NATO Division Commander contains two identical mapboards and rules for Controller play, producing a refereed, double-blind, fog-of-war effect that was lacking in many of the other wargames of the era. Since finding three people (or even two) in any geographic area patient enough to work through the rules is a challenge, the game includes solitaire scenarios as well. With 1200 counters, multiple rule books, and a pile of playing aids, NATO Division Commander was, and still is, the behemoth of World War III simulations.


NATO DIVISION COMMANDER ARTICLE LIST

STRATEGY & TACTICS Magazine

S&T #70 - Nato Division Commander: Command and Control in the

Modern Battlefield Environment: Stephen B. Patrick

(Historical)

FIRE & MOVEMENT Magazine

F&M #26 - Nato Division Commander: Happiness is a Good Staff

Officer: Bill Sanders (Analysis)

Nato Division Commander: After-Action Report:

Bill Sanders (Historical)

Nato Division Commander: Designer's Notes:

James F. Dunnigan (Design Notes)

WARGAMER Magazine

Wargamer Vol.1 #15 - The Future Is Not What It Used To Be:

Andy McGee (Review)

PHOENIX Magazine

Phoenix #32 - Hast Thou Found Me O Mine Enemy?: Nato Division

Commander (SPI): Donald Mack (Review)