SPIを語る上ではずすことのできない「Battle
for Stalingrad」は、ジョン・ヒルが「Squad Leader(1977)」の三年後に製作したゲームです。
戦車中隊、歩兵、工兵、砲兵などの兵科ごとのルール設定が細かく、それによって、デザイナーが考えたスターリングラード観をきっちり提示しています。
特色:
ファイアパワーCRTを利用した「Battle for Stqlingrad」は、ブレークスルーポイントによるラウンド制とあいまって、最初の戦闘からクライマックスに突入します。
ドイツ軍有利のchit-pull-activationなので、ドイツが7〜8回攻撃している間に、ソビエト軍は1〜2回しかできません。しかもドイツ軍の移動力はソビエトの三倍あるので、文字通りマップを横断して攻めてきます。ソビエト軍は、確率1/6のチットが出るまで、錐のように突き刺さってくるドイツ軍を見ているしかないのです。
そして不意に攻勢が変わるので、そのつど双方は作戦を立て直さなければなりません。

中野歴史研究会での2009-1-10の対戦
ソビエトプレイヤーにとって、労働者民兵がすごく邪魔です。ソビエトの砲兵はドイツ戦車中隊に無力だけど、ドイツ砲兵の隣接直接砲撃でソビエト軍が吹き飛びます。とにかく、ファイアパワー式のCRTなので、重視されるのは「攻撃側の火力」だけ。防御力に関係なく、双方のユニットがどんどん除去されて行きます。
ソビエト軍は第二ターンの終わりまでにユニットの1/4近くを失い、どう考えても勝てる様子ではなかったのですが、第三ターンになって、ドイツ軍の進攻速度が鈍りました。なんと、シナリオの設定で第29機械化師団が丸ごと盤上から撤退したのです。ソビエト軍プレイヤー(というか双方)の戦略は、とにかくあきらめないことです。シナリオの設定で光明が射すようになっているみたいです。
第三ターンまでしかプレイできませんでしたが、対戦いただいたakubiさんの分析によれば、後半は双方とも砲兵主体の増援になるので、同じ戦術で戦い続けると不利になるそうです。第七ターンまでやれば、ドイツ軍優位のワンサイドゲームでないことがわかるとか。
ソ連軍の初期対応:
以下、ベテランプレイヤーakubiさんの分析を、ご本人のご承諾を得て掲載します。実のところ、ここに書かれていることの意味が理解できたのは対戦後でした。というか、内容がかなり深いです。
- 支配地域を持つ対戦車砲(1-0-6)や軽戦車(1-0-10)は、最前線にドイツ軍の平地の移動を妨げるように配置します。
これらの部隊は単独では攻勢射撃や防御射撃の火力がゼロであるため、市街戦向きではありません。なるだけ、初期配置・増援ともに平地と市街地の境界線にて運用すべきです。
- 要塞化建造物にはなるべく歩兵科以外の部隊を配置しないようにします。
歩兵科以外の部隊はどのような地形にいても急降下爆撃の餌食となり、拠点の防御力が弱体化します。特に砲兵などは優先的に目標になるのでいくら火力があるからといっても勝利条件の要塞化建造物に砲兵を置くのは良くない戦術です。
- 砲兵はソ連軍にとって非常に貴重な戦力であるため、ドイツ空軍は優先的に空爆のターゲットにします。
つまり、砲兵が配置されたヘクスは必然的に部隊数が減るわけです。従って、勝利条件へクスへの配置はしないほうがいいのですが、さりとて前線に配置するわけにも行きません。そこで、勝利条件へクスでもない要塞化された地形であるヴォルガ河岸に配置すべきです。このとき、共同砲撃ができるように連接して配置し、連携の要のヘクスに対空砲をのせておくといいでしょう。
- ソ連軍のスタック制限はヴォルガ河岸が2ユニットそれ以外は3ユニットですが、初期配置は強制配置へクスが多いため、フリーにセットアップできる部隊数は限られています。空爆の目標にしたくありませんのでスタックすべきではなく、またしたくても戦線維持のためほとんどできないものと思います。
基本的にスタックするのは要塞化建造物、ヴォルガ河岸の砲兵と対空砲、勝利条件へクスに隣接する重建造物くらいです。
- ソ連軍の補給源は3つの渡船場だけです。ここを制圧されますと補給に加え、増援までもが封印されてしまいます。補給が切れたソ連軍はその能力が圧倒的に低減します。
これを繋ぐのは一本の細いヴォルガ河岸ヘクス列です。ドイツ軍はこのヘクスを切断しようと必死で攻勢かけてきますので、ソ連軍もそれを全力で防ぐ努力を強いられます。
とはいえ、いくら数が多いソ連軍とてすべてのヴォルガ河岸ヘクスを守ることはできません。それぞれの渡船場が補給を与える範囲を想定して守るべきヴォルガ河岸ヘクスを決めるべきでしょう。これは戦況によって変動しますので、それ相応の実戦経験が必要となります。
- 迫撃砲を除く砲兵の隣接直接砲撃はいかなる地形でも火力の低減が適用されないことと、損害適用の優先度が戦車(装甲)以外のため、重要拠点のソ連軍には非常に脅威となります。市街地に優秀な歩兵が吹っ飛ばされて諸兵連合効果を失った防御に不適な戦車部隊だけが残されてしまうわけです。
砲兵の隣接を防ぐため、砲兵が含まれると思しきドイツ軍のスタックが移動している場合は(状況にもよりますが)積極的に即時反撃を試みるべきでしょう。
(ソ連軍はドイツ軍のスタック内容が調べられない(戦場の霧)なので観察力が問われます)
- 即時反撃は原則的に軽建造物以下の地形ではできる限り実施すべきです。
もし、同一へクスに複数部隊が存在しても、応戦された場合に一気に殲滅される危険がありますから単独で個別に実施した方がよいと思われます。重建造物以上の地形から即時反撃を行う場合は、その地形効果を失うデメリットをしのぐほどの効果を期待できない限り即時反撃は行うべきではありません。
一つ注意しなければならないことは、反撃を予定しているヘクスの周囲の部隊で即時反撃を行うと反攻フェイズでその部隊は使用できないし、邪魔にもなります。
- 労働者民兵は手軽に大量の補充がなされるため便利な前線補填材として使用しがちですが、補填材であるがゆえに非常にもろいのでドイツ軍の突破点となりやすいものです。
労働者民兵はできる限り重深防御の外側に移動妨害の意味合いで配置するか、一般部隊のスタックにひとつだけ配置するようにします。それでも要塞化建造物に配置すべきではありません。
- 工兵、自動車化歩兵は反撃に有効ですが、数が少なく非常に貴重な部隊です。極力反撃戦力として後置するようにします。
とはいえ、勝利条件へクスに配置してしまうとドイツ軍の攻勢に巻き込まれてしまい、いざと言う時には除去されて使えないとなりがちなので、遊撃用としての温存が必要です。ヴォルガ河岸か勝利条件へクスの後方の重建造物がいいでしょう。
- 中戦車は数も多く、前線や市街地いずれにも汎用的に使用できる便利な部隊です。
ただ、歩兵より火力が低いため、拠点防御用には向きません。前線では支配地域による移動妨害、市街地では即時反撃に使用すべきでしょう。
- ママエフ墓地はドイツ軍の最優先制圧目標拠点であり、ソ連軍はそこを守りきることは決してできません。
それでも、敵に多大な出血を強いる意味で、4-8歩兵などの虎の子部隊を配置してもかまいません。多くのドイツ軍をママエフ墓地に惹きつけておいて他の拠点への圧力の低減を図る意味でそれ相応の価値はあります。
ただ、ママエフ墓地周囲の平地は中央渡船場へのドイツ軍の有効な進撃路となるため、その妨害のため支配地域を展開しておくべき必要があります。ママエフ墓地は陥落しますが、その外周の市街地の保持は重要な作戦的意味を持ちます。
- ドイツ軍は常にソ連軍反攻時の増援部隊を気にしてプレイしています。
ソ連軍の増援が尽きたことを知ると反撃が無いと思って、そのターンの残りはかなり大胆に攻勢をかけてきます。最終反攻フェイズまでには最低2〜3ユニットの増援を予備として温存しておいた方がいいでしょう。
総合評価:
ドイツ軍の勝利条件が厳しいため、本来は両軍にとって勝つことは容易ではないそうです。
内容の濃さもあって、戦い終わった時に友情が芽生えるゲームかもしれません。 |