WARSIM
アメリカ陸軍のウオーゲーム 【前編】

(strategypage、Artificial Intelligence Applications Institute、The Royal Military college of Scienceなどから)

軍事用語において「ウォーゲーム」が言及する範囲は、民間で使われているものよりも広い。
アメリカ国防総省のウォーゲームの定義は、「二つ以上の対立する勢力が登場する軍事作戦のシミュレーション」であり、「ルール、データ、規定によって実際の、あるいは想定できる現実世界が表現されているもの」としている。ゲームの目的はトレーニングであるから、参加プレイヤーは競合的な条件で軍事作戦ないし戦術を相手プレイヤーもしくはコンピュータに挑む。
米国陸軍は、ウォーゲームを次の三つに分類している。

  1. Constructive Simulation (CS)
    我々がウォーゲームと言っているものと同じ。作戦地域を俯瞰したマップを使う。1961年にチャールズ・ロバーツがChancellorsvilleのマップにヘックスを使うまで、ヘックス・システムは軍のトップシークレットだった。

  2. Virtual Simulation (VS)
    フライトシミュレータ、タンクシミュレータ、射撃、対空防衛シミュレータなどのビデオゲーム。メカニック用の修理シミュレータもあるらしい。

  3. Live Simulation (LS)
    造作した現実の地形を使う、小隊〜旅団規模の実地行動。

いずれのウォーゲームも、トレーニング目的のシミュレーション(いわゆる演習)と、シミュレーション(実験)のためのシミュレーションとがある。

CS、VS、LSは、統合して同時に行うことができる。たとえば、軍団司令官が司令部のノートブックPCでCSを行いながら、旅団はアメリカ南西部の演習場でLSを行い、旅団の攻撃ヘリは攻撃シュミレータを使う、などである。この場合、CSとVSに描写された敵が実在しない時は、演習場の兵士は見えない敵と遭遇してしまうので、後に述べるExpedition (TM)のような、何らかの技術的工夫が必要である。

CS
StrategyPageによれば、軍のトレーニングでもっとも頻繁に用いられるウォーゲームがCSである。訓練の規模によってJANUSTACSIM (the Tactical Intelligence Simulation)、BBS (the Brigade/Battalion Battle Simulation)、CBS (the Corps Battle Simulation)などが使い分けられる。JANUSは現在もっとも広く使われている戦闘シミュレータ・プログラムで、小隊から旅団規模までカバーするが、中隊以上によく使われるようである。 BBS は大隊から旅団まで、 CBSは師団から軍団規模である。
最近登場した新システムとして、WARSIMOneSAFがある。

WARSIM (the Warfighters' Simulation)
8年の歳月と3億ドルの巨費を投入して2005年に完成した作戦級CS。Unixサーバーで動作するWARSIMは、大隊、旅団、師団、あるいはそれ以上の司令官と参謀のトレーニング用戦争シミュレータであり、デスクトップPCやノートブックPCのウェッブブラウザから操作する。
WARSIMは、戦闘システムの他に、補給、諜報、指揮官の交代(戦傷、死亡)、移送を含み、複数の大隊長、師団長や軍団長がそれぞれのPCからジョイント・トレーニングできるシステムになっている。WARSIMは、他の軍事用CSと同じように、情報をもとにした戦況の予見、補給と部隊のメンテナンスに重点が置かれている。このシステムのユニークな点は、ユーザーの入力情報が後の分析用に記録できることである。
1997年から開発がはじまったWARSIMは、当初、WARSIM2000と呼ばれ2000年にリリース予定だったが、連結するはずだったJSIMSの開発の失敗により大幅に完成が遅れた。WARSIMの開発には、商用ウォーゲームデザイナーが多数加わったと言われている。(商用ウォーゲームデザイナーについては、Spectrum「コンピュータとウォーゲームの歴史」を参照)


JANUS
小隊から旅団規模の戦闘シミュレータ(プログラム)。 神話から名前がとられたJANUSは、通常兵器から化学兵器まで対応、砲兵システム、固定翼および回転翼機による空対地攻撃、戦闘支援システム、地形、天候などを含む。


JANUSのスクリーンショット


OneSAF (the One semi-automated force)
仮想敵作成システム。小隊、中隊、大隊レベルの戦術級CSで使われ、歩兵、戦車、APC、すべての種類の航空機をサポート、各ユニット間のコミュニケーション、共同任務、天候もまたシュミレートできる。OneSAFを使うことで、オペレーター(ゲームコントローラー)はすぺてのエンティティ(敵ユニット、天候など)を操作せずに済み、OneSAFのプログラム設定を変えることで部隊の強さを変えることができる。


OTB OneSAF

 

Expedition (TM)

トレーニング用ウエアラブル・マシンExpeditionは、CSとLSを統合する装置で、見えない敵を演習場に作ることができる。
Expeditionによって、個々の兵士の位置はもちろん、体に装着されたボディ・モーショントラッカーによって姿勢や体のひねり、首の向きまでが検知され、その情報はメインサーバーのOneSAF(あるいはDI-SAF)と連動する。
ヘルメットに装着されたディスプレイ(HMD)は、OneSAFが作った仮想敵をCG画像として映し出し、所持している銃 - NATO規格のワイヤレス武器コントローラーを装着した訓練用M4A1 - でこの仮想敵を撃つことができる。
M4A1のワイヤレスコントローラーは、銃弾の発射、マガジンのリロード、銃口の位置と角度の情報をサーバーに送り、サーバーのCSシステムが仮想敵に対する当たり外れを判定する。
ExpeditionはWindows XP、 IEEE 802.11, Open GL、DirectX対応、だという。

Expeditionの構成


HMDを通じて、こんな風に見えるらしい。

(以下続く。後編は「商用CSと軍事CSの相違点」)