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BAOR the thin red line in the 1980's by Charles T.Kamps,Jr.

(S&T#88「BAOR」の後編)

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ライン軍団
最初のBAOR(イギリス陸軍ライン軍団)は、第一次大戦後の1918年からわずかの期間、連合国占領軍として存在した。現在の位置にBAORがある理由は、1944年のノルマンディー上陸軍でイギリス軍が左翼を受け持ったことに起源が求められる。上陸に続く連合軍の前進で、イギリス軍は西ドイツ北部を占領し、そこが現在のBAORの位置に隣接している。1946年までに、駐留イギリス軍は第二歩兵師団と第七機甲師団の二個師団に縮小した。1950年、冷戦の緊張により、BAORに第十一機甲師団、1952年に第六機甲師団が追加された。次の二十年間、BAORの人員は最高の77,000名から現在の55,000名に変動している。六十年代、師団は三個師団に削減され(第一、第二、第四師団)、兵科連合編成に改編された。

1975年の防衛白書によって、BAORは機甲師団四個(以前の編成より小規模な師団)と旅団規模の増援の野戦軍に再編成された。戦力増強のためとして発表される再編成は、実態は形を変えた経費節約であり、武器スケールは拡大してもマンパワーは増えなかった。近年において、いくつかの大隊では第四中隊が事実上、基幹人員レベルにまで削減され、これはベトナム戦争時代のヨーロッパ・アメリカ軍の「管理部の溜り場」を想起させるものだった。

戦時、BAORは120,000名まで増強される。増援はテリトルアル陸軍から召集され、人員の欠損、様々な補給能力、本国の常備軍、予備役大隊に充当される。第五野戦軍が編成され、第七野戦軍が増援の主力として作られる。各機甲師団は、軽歩兵大隊(後方警戒のため)および対戦車セクションの予備役大隊によって補強される。
1980年、イギリス軍は第二次大戦のクルセーダー作戦に匹敵する規模の大規模な動員ドリルを行なった。目的のひとつは、10,000名の常備軍と20,000名の予備役を48時間以内にドイツに移送し、BAORと連携することだった。兵士は空と海から運ばれたが、重兵器はBAORが貯蔵しているので、海路による車両の運搬は最低限で済んだ。演習はよく計画され、成功した。疲労しきった兵士はいたものの、ほとんどの部隊が48時間以内に戦場に登場した。

19世紀の志願兵ムーブメントの自然の成り行きとして、テリトルアル陸軍は、歩兵大隊38個、装甲車連隊2個、砲兵野戦連隊2個、防空連隊3個、その他の部隊の規模を持つ。アメリカの州兵と似た形で運用され、BAORの主要な増援要員であり、本国の守りでもある。平時のBAORは弱い存在であり、予備役と現地の支援に大きく依存する。支援がなければBAORは数日しか行動できない。

政治的には、NATO軍は西ドイツにおいて前方防御(forward defense)をしなければならず、これはドイツ政府の意向に沿っている。しかし軍事的には、BAORの戦術部隊 - イギリス第一軍団(British I Corps) - にとっては、次の理由から不幸なことである。
第一に、国境からかなり後方 - それでもベルギーとオランダ軍からさほど離れていない - に宿営しているイギリス軍は、前線に急行しなければならず、ワルシャワ条約軍が奇襲した場合、これはさらに困難な行軍となる。第二に、ヴェーザー川(Weser)で守る方がイギリス軍には有利だが、前方防御は防衛に不利な地形で戦うことに拘束される。さらに、前方防御は、第二次大戦における西部戦線の機動防衛概念の逆をいくものであり、意味のない配置である。

戦闘時の編成
イギリス機械化大隊と機甲連隊(US戦車大隊)は、諸兵科連合戦隊として戦う訓練を受けている。その結果、機械化と戦車大隊はそれぞれの中隊を交換することで、様々な目的にあった戦隊(USタスクフォース)を編成する。同様に、各中隊間において、それぞれの小隊を交換して戦闘グループ(US中隊チーム)を編成する。このようにして編成される戦闘グループは、多かれ少なかれ、次の共通点を持っている:
大隊本部付中隊、師団付偵察連隊から移送された8両のFV107 Scimitar偵察戦車を装備する偵察隊(US小隊)、師団付対戦車砲兵から移送された4~6発のSwingfire対戦車誘導ミサイルを装備する対戦車隊、総合支援砲兵連隊から移送された4発のBlowpipe携帯SAMを装備した防空隊
典型的な戦闘グループは次の通り。

平均的な戦闘グループ: 装甲連隊指令部、機械化中隊2個、戦車スコードロン2個(US戦車中隊)、チーフテン戦車38両、FV-432兵員輸送車24両、ミラン対戦車誘導ミサイル8発、カールグスタフ無反動砲18門、81mm迫撃砲4門

機械化重戦闘グループ: 装甲連隊指令部、機械化中隊1個、戦車スコードロン3個、チーフテン戦車18両、FV-432兵員輸送車36両、ミラン対戦車誘導ミサイル12発、カールグスタフ無反動砲27門、81mm迫撃砲6門

機甲重戦闘グループ: 装甲連隊指令部、機械化中隊1個、戦車スコードロン3個、チーフテン戦車56両、FV-432兵員輸送車12両、ミラン対戦車誘導ミサイル4発、カールグスタフ無反動砲9門、81mm迫撃砲2門

戦闘グループは、最近まで戦隊司令部(task group hq)と呼称されていた中間司令部(intermediate headquarters)によって統御される。"旅団"という用語が、このひとつ星指令レベルを示すため復活している。旅団は2~3の戦闘グループを統率し、それぞれの戦闘グループは、師団近接支援連隊のSP105mmアボット榴弾砲(6両)、もしくは全般支援連隊のSP155mm砲(8門)の支援を受ける。師団司令部は、充当された陸軍航空連隊および偵察連隊の中級偵察スコードロン(中隊)二個をコントロールする。

防衛ドクトリン
イギリス軍の基本的防衛ドクトリンは、脅威情報、地形の最大効用、縦深をもつ布陣を強調する。旅団の戦闘正面幅は3~10kmであり、これは戦闘グループが砲火によってどれだけ相互に防衛できるかで異なる。核攻撃を想定し、それぞれの戦闘グループは4km四方以上に展開し、戦闘グループ間の間隙は最低2kmとする。
戦闘グループレベルには全面的な掩護が提供されるが、初期の妨害行動や連携砲爆撃は、想定される敵の進撃路に集中される。陣地化した地形と隠蔽が重要だが、防衛する兵士の攻撃精神を損なうことがあってはならない。戦域予備(reserves)は、決定的な時期に司令官によって戦場に投入できる状態でなければならない。

戦闘防衛計画は、三つのフェーズから成る:

1) 掩護部隊による初期の敵遅延
2) 積極的遅延戦闘によって防衛準備の時間をかせぐ
3) 戦場における監視、敵行動の束縛、敵攻撃の壊滅

上記に連携して、次の三つの防衛体勢が用いられる。

攻撃遅延: 縦深をもつ作戦によって、距離を時間に置き換える。前線の戦列を重視しながら、最大の損害を敵に与え、敵の進撃速度を遅らせる。やがて自軍の防衛線の背後に撤退する。

定点防御: 地形を利用する縦深防衛。防御拠点は相互に支援し、障害物で守られる。敵の正面攻撃を潰すか、戦域予備によって敵の浸透を排除することを目的とする。定点防御は核の脅威が最低限である時、もしくは防御側に機動力がなく、他の防衛方法が不可能な場合に用いる。

機動防御: テリトリーの確保ではなく機動戦を重視する。核の脅威が大きい場合、もしくは戦闘正面が広大で、これ以外の方法で防衛側がカバーできない場合に用いる。機動防御の成功は、奇襲、戦域予備、攻勢、有利な戦闘比(戦車の場合3:1)にかかっている。

実際には、三つの防衛体勢のすべてがソビエト軍の攻勢に対して必要である。

戦闘中のBAOR
ドイツにおけるBAORの防衛戦は前述の通りである。主に第四機甲師団(4th Armoured Division)による積極的遅延隊が、FEBA(主戦闘地域前縁、forward edge of the battle area、"フィーバ")より先で、ソビエト軍を攻撃し、敵のモーメンタムを奪う。
第四機甲師団は、ソビエトの最初の梯団攻撃を壊滅すべく主防衛線を張るイギリス第一軍団より前方に出る。後方の防衛は第五野戦軍およびイギリスからの増援が受け持つ。

掩護部隊(covering force)の任務は積極的遅延であり、敵偵察部隊の破壊、敵行動の監視、可能な限りの遅延、を行なう。掩護部隊は戦車と敵を"狙撃"する偵察車両から構成される。工兵支援は、緊急地雷原の敷設に用いられ、歩兵が捜索と装甲援護という限定的目的で随伴する。
掩護部隊は、最大限の砲兵支援を受け、その狙いは停止した敵戦車隊および敵後方部隊と敵戦車隊の分断である。前方展開(foward deployment)する砲兵は、頻繁な陣地変換(displacement)が必要であり、慎重な計画が必要となる。

主防衛戦が行なわれるのは、FEBAの真後ろである。この地域は前方防御区域(forward defense area)と呼ばれ、区域の各師団への割り当ては、軍団阻止計画に基づく。各師団は予備軍を展開し、前方防御区域を突破するソビエト軍に備える。軍団級予備軍は、敵の主突破が判明してから投入する。その目的は敵の浸透の阻止と破壊であり、味方師団がオーバーランされることを防ぐ。

反撃
イギリス軍の戦術は、防衛においても積極的な機動戦を重視する。防衛ドクトリンでは、反撃と敵陣地に対する反撃突入(counterpenetration)のために、戦車を中核とする予備軍の保持を定めている。正面からの反撃突破は、敵に与えるのと等しい損害が味方に及ぶことから、既に弱体化し、あるいは交戦状態にある敵に対し、奇襲と側面攻撃を行い、決定的な戦果を得る。

反撃突入は、敵脅威下にある防衛線のバックアップのため、縦深のある予備軍の配置を必要とする。本質的に、反撃突入を行なう部隊は、攻勢に転じて敵を追尾するのではなく、防衛線の延長として拠点を占領し、可能なら陣地化する。いずれの場合でも、最大限の砲兵の投入が必要であり、司令官は味方部隊に近接する、あるいは直上の砲爆撃をためらってはいけない。師団司令官は、残存する最後の予備軍、武装ヘリを投入し、突破部隊を全面的に支援する。武装ヘリは天候および視認性を考慮しなければならないが、固定翼機による作戦ではこの点を無視できる。

警戒と特殊作戦
BAORの保全上の脅威は、空対地攻撃、空挺、空中機動、サボタージュである。戦闘グループレベルでの対空防衛は、Blowpipe携帯SAM(地対空誘導弾)であり、1戦闘チーム(中隊)に1発配備される。それに加え、すべての部隊は、敵航空機、特にヘリコプターと、小火器と機関銃で積極的に交戦することを求められている。地域防空(area air defense)は、BAOR所属の二個の軽防空連隊の任務であり、Rapier短距離防空ミサイルシステムが、軍団にとって致命的な地域をカバーする。

各師団には、後方警戒のための歩兵隊もしくは偵察部隊が追加されることがある。師団級の警戒任務は、司令部および破壊活動の対象となる橋などの重要施設の防衛である。さらに、警戒部隊は、補給路を確保し、師団後方の重要地域を占領する。

軍団後方の警戒は、一個もしくは複数の野戦軍の任務である。師団と同様、軍団級警戒部隊は、補給路、重要施設、司令部および地域を哨戒する。野戦軍はまた、軍団司令下の空中機動用の予備軍であり、BAORの後方連絡線を守るため、補給車列のエスコートも行なう。

第二次大戦後の西ヨーロッパの都市部の発達は、攻撃と防衛にさらなる問題を与えた。ソビエト軍のドクトリンでは、先鋒部隊は主要都市を迂回して進撃する。迂回路がなかったり、NATO守備隊が十分な強さの歩哨線を張る場合、ソビエト軍は一個師団を都市正面の2~4km幅に展開し、一日あたりの侵攻速度を5kmに落とす。
イギリス軍による都市の防衛は、歩兵と工兵に委ねられる。イギリス軍小部隊の高度な練度と主導性は、ソビエト軍を凌駕するものであり、その前進を困難かつ苦渋に満ちたものすることが求められている。通常、イギリス軍戦闘グループは、4km四方の都市部を防衛する。これは機動および戦術縦深に十分な空間である。

森林地帯においても歩兵は中心的な部隊であり、装甲の支援を受けながら機動戦を行なう。森におけるイギリス軍歩兵の第一の任務は、待ち伏せと主要幹線のコントロールである。都市部での防衛と同様、イギリス軍が頼みの綱としているのは、ソビエト軍における局地的な歩兵不足、およびギリギリの状況になるまで歩兵を降車させない彼らの習性、である。開けた農村部では、村の拠点が相互に支援することが、防衛上の観点からもっとも望ましいと考えられている。

イギリス軍もソビエト軍も、24時間の休みない戦闘を想定している。両陣営とも、夜間に再編成と再補充を行なうが、イギリス軍は、敵の連隊級夜間攻撃にも備えている。さらにイギリス軍は、敵の侵攻開始に伴う激しい電子戦も想定している。BAORの対電子戦部隊は、第十四通信連隊であり、電子偵察とジャミングで軍団を支援する。ソビエト軍の化学戦の脅威はマニュアル化されている。イギリス軍は反撃用の化学兵器を装備していないものの、西ドイツ軍を除く他のどのNATO軍よりも、対化学戦に備えている。
BAORの特殊作戦はSAS連隊(Special Air Service)およびHAC(Honourable Artillery Company)が行なう。SASは第二次大戦の砂漠作戦に起源を置くエリート部隊であり、長距離偵察・警戒任務を行なう。HACはテリトリアル陸軍に属し、将校クラスの人材の中から採用される。その任務は極秘だが、HACはおそらくソビエト軍前線後方に機動偵察を行ない、空爆および砲爆撃のターゲットを選別する。

結論
平時のイギリス軍の規模は小さいが、現在の兵力とテリトリアル陸軍をあわせることでようやく戦時兵力となる。そこから後の拡大は、過去の苦い歴史の繰り返しであり、ゼロからはじめなければならない。
BAORの四個師団は、実戦において、ドイツもしくはアメリカ軍の師団の半分の戦力であり、重砲と対戦車ミサイルの数はさらに下回る。イギリス軍の強さは連隊システムにあり、それは過去に証明されている。
無形の忠誠心と団結心は、強靭さと実践的な訓練によって、イギリス軍をして近代戦の戦場における無視できない存在としている。

幻の"セントラルフロント"。BAORの守備位置はライン川の200km東である。