Panzer Command (VG)

思い通りに動かないユニット

「Ambish!」をデザインしたEric Lee Smith氏による「Panzer Command」(1984年)は、「Panzerblitz」に代わる汎用的な戦術システムを目指したもので、中隊規模のユニットでスターリングラード西方における小規模な戦闘を表現しています。

「Panzer Command」の優れた点は、他の複数のゲームサイトでも指摘があるように、混乱と計画性の絶妙なミックスにあります。

特徴:
「Panzer Command」において、移動するユニットはチットで無作為に決定されます。すなわち、一回のターンの中で、ソビエト、ドイツの双方が入り乱れて移動と戦闘を行なうわけです。同時に、指揮ポイント(Direct CommandとDispatch Point)によって各プレイヤーには余剰の指揮能力が与えられており、条件を満たすならば、ユニットは1ターンの中で最大5回の移動/戦闘ができます。両プレイヤーは、移動する連隊がランダムに決定される状況のもと、十分な予見性を持って指揮ポイントを使うことが求められれます。

上級ルールになると、 「Panzerblitz」のようにトラックで移動力0の火砲やロケット砲を移動するようになります。また、シングルブランド方式で、片方のプレイヤーのユニットの位置をすべて秘匿してプレイするオプションプレイもあります。

1ヘックス500m、山岳地帯のヘックスは各色20mの高低差を持つ。戦闘を行なうにはヘックスの中心点同士を結ぶ射線が通らなければならない。

シナリオ:
一般的に、ソビエト軍にはドイツ軍の二倍近くのユニットが与えられていますが指揮ポイントが少なく、一方、ドイツ軍はユニットの数こそ少ないものの、優越した指揮ポイントが与えられています。指揮ポイントを駆使して、「蝶のように舞い蜂のように刺す」機動戦を試みるのがドイツ側の醍醐味と言えます。ほとんどのシナリオは、一日で終わる長さのようです。

感想:
チット・ルールのおかげで、「もし自軍ユニットが思い通りに移動できなかったら?」というオプションまで考えなければなりません。幸いにして本物の戦争をしたことはありませんが、ビジネスにおいて、「もし〜なら...」は常に考えることであり、「Panzer Command」は日常のリアリティを十分に感じさせていると思います。

このゲームの視点は明確で、それは刻々と変化する戦況に対応しなければならない連隊司令官の立場です。プレイヤーは、自軍ユニットが予定通り動いてくれることを祈らなければなりません。しかし、命令が届いていないとしか思えない状況になったり、先に動かないでもいいユニットが動かせることがあるのです。無線で各部隊に指令を送っているような感じがするゲームです。そして、指揮ポイントの使用は、たぶん投機的です。先がどうなるか、誰にもわからないのですから。

指揮に重点を置くルールでありながら、それを移動/戦闘に対する制限ではなく、プレイを盛り上げるルールに磨き上げているのは感嘆すべき点であり、戦闘が単なる頭脳プレイでもダイスの確率でもないことを表現したゲームになっています。ユニットにはT72とレオパルドIIの中隊も入っていることから、近代戦も含めた機甲部隊の運用ルールを視野に入れていたと思われます。
難点をあげるとすれば、ユニットチェックが多いので、たった一日の戦闘を描いているシナリオでも数日の戦闘をしているように長く感じられることです。

「Panzer Command」は、多くのウオーゲーマーから続編が待ち望まれながら長年忘れられていたゲームの代表格でしたが、2005年にこのゲームのルールから発展した「Devil's Cauldron (マーケットガーデン作戦)」が発売されました。